認知症の中核症状「見当識障害」とは?家族が知っておくべき対応ポイント
こんにちは、介護主任のみしょです。
今回は、認知症の中核症状のひとつである「見当識障害」について、現場の視点から詳しく解説します。
「見当識障害」とは、時間・場所・人物の感覚が分からなくなる症状で、認知症の方に非常に多く見られます。
家族としては「どうして分からないの?」「何度も同じことを聞かれる…」と困惑しやすい部分。
しかし、この症状は単なる“物忘れ”ではなく、脳の機能低下によって起こる「方向感覚の喪失」です。
この記事では、特徴・原因・家族ができる工夫・支援方法を、介護主任の立場から具体的にお伝えします。
見当識障害とは?
見当識(けんとうしき)とは、「自分がいつ・どこで・誰といるのか」を理解し、状況を正しく認識する力のことです。
これが失われると、本人の中で「今の現実」と「過去の記憶」が混ざり、時間や場所、人間関係の感覚がズレるようになります。
たとえば、昼間でも「夜だ」と思い込んだり、自宅にいながら「家に帰る」と言い出すこともあります。
これは“嘘をついている”わけではなく、本人の脳が本当にそう認識している状態です。
- 「今日は何日?」と何度も尋ねる
- 夜中に「学校に遅れる」と準備を始める
- 自宅なのに「ここはどこ?」と不安がる
- 家族を昔の知人や兄弟と勘違いする
このような混乱は、記憶障害や理解力の低下と重なって起こるため、日常生活に大きな影響を与えます。
進行のパターン
見当識障害は、多くの場合、次の順番で進行していきます。
- 時間の見当識の低下:日付や季節、昼夜の区別がつかなくなる
- 場所の見当識の低下:自宅や施設など、今いる場所が分からなくなる
- 人物の見当識の低下:家族や介護職を他人と勘違いする
つまり、最初は「今日は何日?」といった時間の混乱から始まり、次第に「ここはどこ?」と空間の感覚を失い、最終的には「この人は誰?」と人物の認識が曖昧になっていくのです。
この進行は人によって差がありますが、認知症が進行するにつれて見当識のズレが強まる傾向にあります。
家族が感じる難しさ
見当識障害は、家族にとって最も戸惑いやすい症状のひとつです。
たとえば、
- 「ここが家じゃない」と言い張って外に出ようとする
- 「自分の親が生きている」と思い、会いに行こうとする
- 「あんた誰?」と家族に言う
これらの言動は、本人の中では真実として感じられているため、いくら「違うでしょ!」と訂正しても理解されません。
むしろ、否定されることで不安や怒りが増し、関係がこじれることもあります。
ここで大切なのは、正すことよりも安心を与えること。
現実を合わせるより、「気持ちを落ち着ける」ことを最優先にしましょう。
家族ができる対応のポイント
① 時間の見当識をサポートする
まずは、時間の混乱を防ぐ工夫を取り入れましょう。
- 大きなデジタル時計を部屋に設置(朝・昼・夜の区別がつきやすい)
- カレンダーに予定を書き込み、見える場所に貼る
- 「今日は10月15日、火曜日ですよ」と会話の中で自然に伝える
視覚的に情報を伝えることで、混乱を少しでも軽減できます。
② 場所の安心感をつくる
自宅なのに「家に帰る」と言う場合、環境が変わった不安が原因のことが多いです。
- 部屋のレイアウトを頻繁に変えない
- 昔の写真や馴染みの物を飾って「自分の家だ」と感じられるようにする
- 「ここは〇〇さんのお家ですよ」と優しく声をかける
「帰る」と言われたときは、無理に止めず、「少し休んでからにしましょう」と寄り添うのが効果的です。
③ 人物の認識をサポートする
家族を「他人」と勘違いされると、ショックを受ける方も多いですが、これは本人のせいではありません。
記憶が過去の時期に戻っているだけなのです。
- 「私は〇〇、あなたの娘ですよ」と名前を名乗って話しかける
- 古いアルバムを一緒に見ながら、安心できる話題をする
- 無理に思い出させようとせず、穏やかに接する
「忘れたこと」を責めるのではなく、「今この瞬間の関係」を大切にすることが信頼関係につながります。
見当識障害に見られる危険行動
見当識障害が進行すると、徘徊や転倒などのリスク行動が増えます。
- 「帰る」と外出して迷子になる
- 夜中に出歩く(昼夜逆転)
- 知らない人について行く
これらの行動は、本人が「自分の記憶の中の場所に帰ろうとしている」結果です。
そのため、「徘徊」ではなく「目的のある外出」として受け止め、GPS付き見守り機器の導入やドアセンサーの設置など、安全対策を講じましょう。
専門職との連携が大切
見当識障害は、家族だけで抱え込むとストレスが大きくなります。
そこで活用してほしいのが、ケアマネジャーやデイサービス、地域包括支援センターなどの専門支援です。
- デイサービスで日中のリズムを整える
- 介護職員が本人の行動を見守り、家族に報告してくれる
- ケアマネジャーが生活環境を一緒に調整してくれる
「もう限界」と感じる前に、相談することが大切です。
まとめ
見当識障害は、認知症の中核症状の中でも家族の対応が特に求められる症状です。
本人は「わざと」言動しているわけではなく、脳の働きの変化により、現実と記憶の境界があいまいになっているだけです。
家族が焦らず、安心できる環境を整えることで、本人の不安はぐっと軽減されます。
そして、無理せず専門職やサービスを頼ることも“優しい介護”のひとつです。
――「否定よりも共感を。」
それが、見当識障害と向き合う家族にとって、最も大切な関わり方です。

コメント