BPSDでみられる「妄想」とは?
〜認知症における特徴と介護の工夫〜

● 介護の始め方

BPSDでみられる「妄想」とは?
〜認知症における特徴と介護の工夫〜

こんにちは、介護主任のみしょです。
今回は認知症の行動・心理症状(BPSD)の中でも、家族を深く悩ませることの多い「妄想」について、現場での対応や考え方を解説していきます。

妄想は、介護者にとって精神的な負担が大きい症状のひとつです。
「財布を盗まれた」「夫が浮気している」「誰かが自分をいじめている」など、根拠のない思い込みを強く信じてしまう状態が続くと、関係性がギクシャクしてしまうこともあります。

しかし、これは「性格が変わった」「わざとそう言っている」ということではありません。
脳の変化や不安感などが重なって起こる病気による反応です。
ここでは、介護主任として現場で感じた「妄想への理解」と「対応のコツ」をお伝えします。


■ 妄想とはどんな症状か?

妄想とは、実際には起きていないことを確信してしまう状態です。
とくにアルツハイマー型認知症では、「物盗られ妄想」が代表的です。
たとえば自分で財布を棚の奥にしまい忘れ、見つからないと「誰かに盗まれた」と思い込むようなケースです。

このような妄想は、家族や職員など身近な人が疑われやすいという特徴があります。
信頼関係があるほどショックが大きく、「どうしてそんなことを言うの?」と悲しくなってしまう方も多いでしょう。

ですが、本人にとっては「実際に盗まれた」「裏切られた」と感じているため、ただの思い込みではなく“現実として体験している”のです。


■ 妄想が起こる原因

  • 記憶障害:しまったこと自体を忘れてしまい、「なくなった=盗まれた」と思い込む。
  • 認知機能の低下:物事を論理的に整理できなくなり、誤ったつながりで理解してしまう。
  • 不安や孤独感:頼れる人がいないと、周囲を疑うことで「自分を守ろう」とする。
  • 環境の変化:物の位置が変わる、職員が入れ替わるなどが刺激となりやすい。
  • 過去の記憶との混乱:昔の記憶が今と混ざり、「あのとき盗まれた」と感じる。

つまり妄想は、「記憶の抜け」と「不安」が合わさって起こることが多いのです。
介護者が悪いわけでも、本人が嘘をついているわけでもありません。


■ 妄想がもたらす影響

妄想が続くと、本人も周囲も大きなストレスを抱えます。
特に家族が疑われる場合、「信頼していたのに」「なんで私が」と深く傷ついてしまうケースを多く見てきました。

また、介護現場では「特定の職員だけを敵視する」ようなケースもあります。
「この人が盗んだ」「この人がいじめている」など、特定の対象に妄想が集中してしまうのです。
その結果、ケアを拒否されたり、暴言・暴力につながることもあります。

しかし裏を返せば、それだけその人の存在が近く、影響が大きいということでもあります。
「安心できる相手」に対して妄想が出やすいのは、実は珍しくありません。


■ 現場でよくある妄想の例

  • 「財布を盗まれた」「通帳がなくなった」などの物盗られ妄想
  • 「夫(妻)が浮気している」「子どもが遺産を狙っている」などの被害妄想
  • 「誰かが自分を悪く言っている」「陰口を叩かれている」などの被害的解釈
  • 「家に帰れなくするつもりだ」などの施設職員への疑念

こうした妄想は「信頼していた相手ほど」向けられることがあります。
それは“家族や職員が一番身近な存在”だからこそ。
本人にとって、その人たちが「自分の安全を脅かす存在」に変わってしまうのです。


■ 妄想への対応の基本

  1. 否定しない
    「そんなことあるわけないでしょ!」と否定すると、さらに不安を煽ってしまいます。
    「それは心配でしたね」「一緒に探してみましょう」と、まず気持ちに寄り添うことが大切です。
    妄想の正否を論理で覆そうとするのではなく、安心を与える会話を意識しましょう。
  2. 物の定位置を決める
    財布・鍵・眼鏡など大切なものは、いつも同じ場所に置くようにします。
    本人が確認できるよう、目に入りやすい場所に透明なケースを用意するのもおすすめです。
  3. 環境を落ち着かせる
    部屋の片付けや照明調整など、混乱を招く要素を減らします。
    また、頻繁に物の配置を変えると混乱が増すため、可能な限り一定の環境を保つことが重要です。
  4. 専門職に相談する
    妄想が強くなって睡眠や食事に影響する場合は、医師やケアマネジャーに相談しましょう。
    向精神薬や環境調整で改善が見られることもあります。
  5. 気をそらす工夫をする
    妄想の話題を続けるより、軽く受け流して別の話題に誘導します。
    「そうでしたか。ところで、今日は天気がいいですね」など、自然に話題を切り替えるのがコツです。

■ 介護主任として現場で感じること

現場で働く中で、「妄想が強い方ほど、不安が強い」という共通点を感じます。
特に夕方になると不安が増し、妄想が出やすくなる「夕暮れ症候群」もあります。
この時間帯は照明を少し明るくしたり、穏やかに声をかけて安心感を与えることが大切です。

また、「家族だからこそ言われてつらい」という声も多く聞きます。
私自身、施設でご家族が「お母さん、私は盗ってないよ」と涙ぐむ姿を何度も見てきました。
そのたびに感じるのは、“妄想の裏には助けを求める気持ちがある”ということです。
「信じてほしい」「そばにいてほしい」という気持ちが、疑いの形で出てしまうのです。


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■ ご家族へのメッセージ

妄想の対応で最も大切なのは、「自分を責めないこと」です。
妄想は脳の変化による症状であり、介護者の努力や優しさとは関係ありません。
「どう接しても信じてもらえない」「疲れてしまう」と感じたら、それは決してあなたのせいではありません。

地域包括支援センターに相談すれば、専門職が客観的に状況を整理してくれます。
デイサービスの利用やショートステイを挟むことで、家庭での負担を減らすこともできます。

介護は「がんばること」よりも「続けること」が大切です。
少しずつ人に頼りながら、自分の心を守ることも“良い介護”の一部です。


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■ まとめ

認知症の「妄想」は、本人にとって現実と同じくらい切実な体験です。
否定せず受け止め、安心できる環境を整えることが第一歩。
そして、介護者自身が孤立せず、専門職や地域とつながりながら支えることが何より大切です。

介護の現場では、完璧な対応よりも「一緒に悩み、寄り添う姿勢」が信頼を築きます。
妄想の向こう側にある「不安」や「孤独」に目を向けながら、本人の尊厳を守るケアを目指していきましょう。

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