BPSDと中核症状の関係|なぜ徘徊や暴言が起こるのか
こんにちは、現役の介護主任のみしょです。
介護の現場では、認知症の方が急に怒り出す・夜中に外へ出てしまう・食事を拒否するといった行動が見られることがあります。
これらは「性格が変わった」「わざと困らせている」わけではなく、脳の変化から生じるBPSD(行動・心理症状)によるものです。
今回は、認知症ケアに欠かせない中核症状とBPSDの関係について、現場視点で詳しくお話しします。
■ 中核症状とは?
中核症状とは、認知症そのものによって直接引き起こされる「脳の障害」による症状のことです。
たとえばアルツハイマー型認知症では、記憶を司る海馬がダメージを受けることで記憶障害が起こります。
このように、中核症状は“脳の神経細胞が壊れること”で生じるため、リハビリや努力では完全に戻すことは難しいものです。
主な中核症状の種類
- 記憶障害: 直前の出来事を忘れてしまう。財布を置いた場所が分からなくなる。
- 見当識障害: 時間・場所・人の認識が曖昧になる。今が昼か夜か分からない。
- 失語・失行・失認: 言葉・動作・物の認識が難しくなる。
- 実行機能障害: 段取りや計画が立てられず、複数の作業が続かない。
これらの中核症状が進むことで、日常生活のあらゆる行動がスムーズに行えなくなり、本人の不安や混乱が強まっていきます。
■ BPSDとは?
BPSDとは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動・心理症状)」の略で、中核症状に環境や心理的要因が加わることで表れる二次的な症状です。
BPSDは、認知症そのものではなく、“本人の心のサイン”として現れることが多いのが特徴です。
代表的なBPSDの例
- 徘徊(家に帰ろうとする・落ち着かず歩き回る)
- 暴言・暴力(怒りっぽくなる、介助を拒否する)
- 妄想(物を盗られた、配偶者が浮気している)
- 抑うつ(何もしたくない、表情が乏しくなる)
- 幻覚(いない人が見える、声が聞こえる)
- 不安・興奮(常に落ち着かず、同じ質問を繰り返す)
BPSDは人によって現れ方が違い、同じ人でも日によって変化することがあります。
そのため介護者は、「今、何に不安を感じているのか」「どうすれば安心できるのか」を読み取る姿勢が大切です。
■ 「中核症状 → BPSD」に変わる仕組み
BPSDは突然現れるわけではありません。多くは中核症状が土台にあり、そこに環境や心の要因が重なることで引き起こされます。
いくつか代表的なパターンを見てみましょう。
- 記憶障害 → 妄想・暴言
財布を置いた場所を忘れてしまう → 「盗まれた」と思い込み、怒り出す。
→ 周囲の人への信頼が薄れ、被害妄想が強くなる。 - 見当識障害 → 徘徊
「ここは自分の家ではない」と思い込み、「家に帰らなきゃ」と外に出てしまう。
→ 実際には施設や自宅であっても、本人には「知らない場所」に感じられている。 - 失認 → 食事拒否・異食
食べ物が何か分からない → 食べ物を拒否したり、紙やティッシュを口に入れてしまう。
→ 否定せず「一緒に確認しながら」食事を進めると落ち着くこともある。 - 実行機能障害 → 服装の乱れ・拒否
手順が分からず混乱 → 季節に合わない服を着たり、「着替えたくない」と拒否する。
このように、BPSDは「中核症状 × 不安 × 環境のズレ」が組み合わさって起こると言えます。
■ BPSDをやわらげる3つの視点
BPSDを減らすために、現場では次の3つの視点を意識しています。
① 環境調整
明るさ・音・温度・人の出入りなど、環境の変化は本人にとって大きなストレスになります。
いつも同じ場所・同じ手順・同じ声かけを意識することで、安心感が高まります。
② 否定しない・受け止める
「盗ってないでしょ!」「そんな人いないよ!」と否定すると、本人の不安はさらに強まります。
「そう思ったんだね」「一緒に探してみよう」と寄り添う言葉が、安心につながります。
③ 小さな成功体験を積み重ねる
「自分でできた」「ありがとうと言われた」——この感覚が残ると、行動が落ち着きやすくなります。
介護者側も“完璧を求めない”ことが大切です。
■ 介護主任の現場体験から見えること
私が勤務する施設でも、BPSDの対応に悩むご家族から多く相談を受けます。
その中で共通しているのは、「原因を本人のせいにしてしまいがち」だという点です。
しかし実際には、本人が不安をどう表現していいか分からないだけなのです。
たとえば、夜間に「家に帰る」と言って外へ出ようとする方は、昔の記憶の中で「家族が待っている」「子どもを迎えに行かなきゃ」と感じています。
このとき、“現実を否定する”のではなく、“気持ちを受け止める”ことが大切です。
「今日はもう遅いから、明日一緒に行こうね」と声をかけると落ち着くケースもあります。
また、暴言や拒否が見られる方の場合も、実は介助の手順やスピードが速すぎたり、羞恥心を刺激していることが原因のこともあります。
介護者側が少し立ち止まり、“なぜ怒ったのか”を観察する姿勢が、BPSD軽減の第一歩です。
■ 家族にできる具体的なサポート
- 否定せず、安心できる言葉をかける。
「違うでしょ」より「そう思ったんだね」「一緒に探そう」が効果的。 - 生活リズムを整える。
朝日を浴びる、食事時間を一定にすることで昼夜逆転を防ぐ。 - 安心できる環境を作る。
トイレの場所を明るく表示する、本人の持ち物を常に見える場所に。 - 介護サービスを積極的に利用する。
デイサービスでの交流や、訪問介護での支援が本人の安心につながる。
■ まとめ
認知症のBPSD(行動・心理症状)は、中核症状が土台にあるSOSのサインです。
「怒る」「徘徊する」「拒否する」その行動の裏には、必ず理由があります。
家族がその“理由”を理解し、安心できる環境と関わり方を意識することで、BPSDは大きくやわらぎます。
介護は決して一人で抱えるものではありません。
医療・介護の専門職と連携しながら、本人にとっても家族にとっても穏やかな時間をつくっていきましょう。
コメント