中核症状:失行とは?症状の特徴と家族ができる関わり方

● 介護の始め方

中核症状:失行とは?症状の特徴と家族ができる関わり方


こんにちは、介護主任のみしょです。
認知症の中核症状のひとつに「失行(しっこう)」というものがあります。
一見すると体は動くのに、「なぜかできない」「手順が分からない」――そんな場面に出会うことがあります。

今回は介護主任としての経験から、失行の特徴・種類・家族の関わり方を分かりやすく解説します。
実際の介護現場でよくある事例を交えながら、「どう支えると良いか」を丁寧にお伝えします。


失行とは?

まず、「失行」とはどんな状態を指すのでしょうか。

運動機能や筋力には問題がないのに、目的のある動作がうまくできなくなる状態を「失行」と呼びます。
つまり、体を動かす力そのものはあるのに、手順や動作の組み立て方が分からなくなるのです。

例えばこんな場面が見られます:

  • 服を着ようとして袖に腕を通せない、前後を間違える
  • 箸を持っても使い方が分からず、手を止めてしまう
  • 歯ブラシを渡しても磨き方が分からない
  • 洗顔で顔を洗う手順が思い出せない

頭の中では「やり方」を知っているつもりでも、その動作を行う指令がうまく出せなくなるのが失行の特徴です。

私の現場でも、「できないことに本人が一番戸惑っている」という場面を多く見てきました。
できないことを責めるのではなく、脳の障害による症状だと理解することが第一歩です。


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失行の原因とメカニズム

失行は主に、脳の前頭葉や頭頂葉の障害によって起こります。
特に認知症の中でもアルツハイマー型認知症脳血管性認知症で見られることが多いです。

これらの脳の部分は「動作を計画し、実行に移す」役割を担っています。
その機能が低下すると、たとえ動き方を“知っていても”、動作の順序づけや意図した動きがスムーズにできなくなるのです。

つまり、「体が動かない」わけではなく、「どう動かしていいか分からない」という感覚に近い状態になります。


失行のタイプと具体例

失行にはいくつかのタイプがあります。ここを理解しておくと、介護や支援の仕方が見えてきます。

① 観念失行(かんねんしっこう)

動作の意味が分からなくなるタイプです。
例えば、歯ブラシを渡しても「どう使うか」が分からず、口に入れずに髪をとかそうとすることもあります。

② 観念運動失行(かんねんうんどうしっこう)

「やりたいこと」は頭で分かっているのに、うまく体が動かないタイプです。
例として、ボタンを留めようとしても指が思うように動かず、途中で止まってしまうことがあります。

③ 構成失行(こうせいしっこう)

積み木を並べる、絵を描く、折り紙を折るなど、複数の要素を組み合わせる作業ができなくなるタイプです。
認知機能の低下が進むと、身の回りの整理整頓が難しくなることもあります。


介護主任の現場経験から見る「失行のサイン」

私がこれまでの現場で感じたのは、失行は最初は小さな違和感から始まるということです。

  • 服の前後を間違えるようになった
  • 洗濯物をたたむときに手が止まる
  • エプロンをつけようとして首ではなく腕に通す
  • お茶を入れようとしても順番が分からず固まる

こうした「ちょっとしたズレ」を責めるのではなく、本人の混乱や不安を理解する姿勢が何よりも大切です。
失行は本人にとって「やり方が分からない」「思うように動けない」という強いストレスになります。

介護者が焦るほど、本人も不安になります。
ゆっくり、丁寧に、一緒に行うことが大切です。


家族ができる関わり方

では、家庭でできる具体的なサポート方法を紹介します。

① 服の準備は「分かりやすく」

服を着る動作に迷う場合、前後・左右が分かりやすいように準備します。
たとえば、あらかじめ袖を通しておいて「ここに腕を通そうね」と声をかけるだけでも安心感が違います。

② 道具をシンプルにする

食事では、箸が難しいと感じる場合はスプーンやフォークに切り替えるのも良い方法です。
「使えなくなった」ではなく、「今の本人に合った形に変える」という視点が大切です。

③ 動作を一緒に行う

「やって見せる」「一緒にやる」ことで、動作の流れを思い出せることがあります。
手を添えて誘導するのも効果的です。

④ 否定せず、褒める

できた部分をしっかり褒めることで、本人の自尊心が守られます。
「そこまでできたね」「ゆっくりでいいよ」と、安心できる声かけを意識しましょう。


失行への対応でやってはいけないこと

家族が頑張ろうとするあまり、つい次のような対応をしてしまうことがあります。

  • 「なんでできないの?」と責める
  • 全部やってあげてしまう
  • 周囲で笑ったり、急かしたりする

こうした関わりは、本人の「できない悔しさ」をさらに強めてしまいます。
失行は本人の努力ではコントロールできません。
焦らず、できる部分を一緒に見つけていくことが、最も大切な支援です。


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介護現場での支援の工夫

特養などの現場では、失行のある方には環境設定と声かけを重視します。

  • 衣類を「上・下」で分けて置く
  • 食器を一度に並べず、必要なものだけ出す
  • 一動作ずつ声をかける(例:「今はボタンを留めますね」)
  • 視覚的な手がかりを増やす(例:色分け・目印)

こうした小さな工夫が、失行による混乱を大きく減らします。
「できない」ではなく、「できるように環境を整える」――これが介護の基本です。


まとめ

失行は認知症の中核症状のひとつで、「体は動くのに行動ができない」という不思議でつらい状態です。
家族にとっても、本人にとっても大きな戸惑いがあります。

しかし、焦らず、否定せず、寄り添う関わりを続けることで、本人の安心感と自尊心を守ることができます。
「どうしたらできるか」を一緒に考えることこそ、家族にできる最大の支援です。

介護の現場では、失行は「できない症状」ではなく、「支え方を変えればできることが増える症状」です。
ぜひ、温かい視点で関わってみてください。

介護主任 みしょ

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