認知症の中核症状「失認」とは?原因・症状・家族ができる対応方法
こんにちは、介護主任のみしょです。
今回は、認知症の中核症状のひとつ「失認(しつにん)」について解説します。
失認は、「見えているのに分からない」「聞こえているのに理解できない」といった不思議な症状で、家族にとっても理解が難しい部分です。
一見すると「目が悪くなったのかな?」「耳が遠くなったのかな?」と思いがちですが、実はそうではありません。
原因は脳の認知機能の障害であり、視力や聴力そのものには異常がないケースが多いのです。
失認とは?
失認とは、感覚器官(目や耳)が正常でも、脳が情報を正しく処理できず、対象を認識できない状態のことを指します。
つまり、「見えているのに分からない」「聞こえているのに意味が理解できない」状態です。
これは、脳の「認識する部分」である頭頂葉や側頭葉などの働きが低下することで起こります。
本人に悪気はなく、環境や脳の状態によって認識が変わることもあります。
よく見られる例
- リンゴを見ても「これは何?」と言う
- 家族の顔を見ても誰だか分からないことがある
- 鏡の中の自分を「知らない人」と思い、話しかけてしまう
- テレビの映像や写真を現実と混同して混乱する
このような行動は、「目が見えていない」わけではなく、「見たものを理解できない」ことによるものです。
失認の種類とそれぞれの特徴
「失認」と一口に言っても、実はいくつかのタイプに分かれます。
それぞれに見られる行動や対応の仕方が異なるため、理解しておくことが大切です。
1. 視覚失認
物を見ても、それが何か分からなくなる状態です。
コップやスプーンなど、日常的に使うものでも判断ができなくなることがあります。
特に高齢者の場合、形が似ているものや色が多いデザインだと混乱しやすく、
「見えているのに使い方がわからない」という状況になります。
2. 聴覚失認
音や言葉が聞こえても、それが何なのか理解できない状態です。
例えば、電話のベルが鳴っても「この音が何を意味しているか分からない」というケースがあります。
また、家族の声が聞こえても内容が理解できず、「聞こえない」と誤解されることもあります。
3. 身体失認
自分の体の一部を正しく認識できない状態です。
「自分の手を他人の手と思い込む」「足が自分のものと分からない」などが代表的な例です。
このような状態になると、服を着る・お風呂に入るなどの動作が難しくなります。
4. 同時失認
複数の情報を同時に認識できなくなる症状です。
例えば、部屋全体を見渡せず、一部分しか認識できないため、物を探すのが極端に難しくなります。
「メガネがない!」と騒いでいるのに、実は目の前にある——という場面もこのタイプの特徴です。
失認があると起こる生活上の困りごと
- 日用品の使い方が分からなくなる(歯ブラシ・テレビリモコンなど)
- 服の前後や上下が分からず着替えができない
- 家族を他人と思い、警戒したり拒否したりする
- 鏡に映った自分を「知らない人」と思い込み、話しかけたり怒ったりする
- 自宅の中で迷子になり、「ここはどこ?」と不安になる
このような行動は、家族から見ると「突然おかしくなった」と感じることもありますが、
失認による混乱や恐怖が背景にあります。
家族ができる対応方法
失認に対しては、「説明して分からせよう」とするよりも、環境と声かけの工夫が重要です。
1. シンプルな環境づくり
派手な柄のカーテンや食器は混乱の原因になります。
物の数を減らし、白・ベージュなど落ち着いた色調で統一すると、認識しやすくなります。
2. 置き場所を固定する
日用品の位置を頻繁に変えると混乱が増します。
「コップは流しの横」「服はこの棚」と決めて、毎回同じ場所に置くようにしましょう。
3. 声かけで補う
「これはスプーンですよ」「こっちが右手ですよ」と、やさしく説明してあげましょう。
ポイントはゆっくり・優しく・短く伝えることです。
4. 否定しない・驚かせない
鏡を見て「知らない人がいる!」と言ったとしても、「違うよ、自分でしょ!」と否定すると不安が強まります。
「そうだね、びっくりしたね」と共感し、鏡を一時的に隠すなど環境を整えましょう。
5. 安心感を最優先に
失認のある方は、自分の感覚を信じられず、常に不安を抱えています。
そのため、穏やかな表情と声かけが最も大切な支援になります。
介護主任からのメッセージ
私が現場で感じるのは、失認がある方ほど「安心」を求めているということです。
周囲の人が穏やかであれば、混乱も減り、表情が柔らかくなります。
逆に、焦らせたり否定したりすると不安が増し、さらに混乱が進むこともあります。
家族ができる最大の支援は、「間違いを正すこと」ではなく、
一緒に安心できる環境を作ることです。
小さな声かけや、そっと隣に座るだけでも、本人にとっては大きな支えになります。
まとめ
- 失認は「見えているのに分からない」「聞こえているのに理解できない」中核症状
- 視覚・聴覚・身体・同時失認など、タイプによって行動が異なる
- 否定せず、環境と声かけで安心を与えることが最も大切
- 失認は「本人のせい」ではなく「脳の働きの変化」
家族が穏やかに接することで、本人の安心感も増し、介護の負担も軽くなります。
理解と支えがあれば、認知症と共に生きる日々も、穏やかで温かいものに変わります。
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