サービス付き高齢者住宅って、介護施設？
誤解されがちな違いと選び方

こんにちは。特別養護老人ホームで介護主任をしている、みしょです。この記事は家族の視点で、「サービス付き高齢者向け住宅（以下、サ高住）」と一般的な介護施設の違いを分かりやすく、実務的な観点から丁寧に解説します。
「サ高住って介護してくれるの？」「どんな人に向いているの？」――そんな疑問に答えます。これから住まいを検討する方、ご家族のサポート役の方に向けた“後悔しない選び方ガイド”です。

まずは結論：サ高住は“住まい”であり、介護はオプション

端的に言うと、サ高住は「住まいを提供する賃貸住宅」です。バリアフリー設計や生活相談、安否確認などの「見守り系サービス」は標準でついていることが多いですが、実際の介護（入浴介助や排泄介助、日常生活上の介助）は基本的に外部の訪問介護事業者と個別契約して利用します。

対して、特別養護老人ホーム（特養）や介護老人保健施設（老健）などは、介護サービスが包括的に提供される「暮らしの場」です。つまり、サ高住＝住まい契約、介護施設＝生活と介護のセットと理解してください。

サ高住の“良さ”と“限界”を現場から解説

ここでは、私が現場で家族説明をする視点で、サ高住のメリットと注意点を整理します。

メリット（長所）

• 自由度が高い：外出や来客、生活リズムを自分で決められるため、元気な方やゆっくり自立を維持したい方に合いやすい。
• 初期費用・拘束が比較的少ない：入居一時金が低めの物件も多く、比較的短期的に入居を検討しやすい。
• 見守り+生活相談があり安心感がある：緊急時の連絡体制や生活相談窓口があり、完全に孤立するリスクを下げられる。
• 外部サービスを選べる：訪問介護やデイサービスなどを自由に選べるため、柔軟にサービスを組める。

限界（注意点）

• 常時ケアは期待できない：夜間に介護職員が常駐するわけではない物件が多く、緊急対応の速さが介護施設ほどではない。
• 介護費用が別途発生する：介護が必要になったら外部事業者の料金が加算され、トータルコストが意外に高くなることがある。
• 認知症・医療ニーズが増すと不向き：認知症が進行したり、常時医療ケアが必要になると、転居や施設変更の検討が必要になることが多い。
• 事業所の質で差が出やすい：同じ「サ高住」でも運営会社や提携先の質で暮らしや安全性が大きく変わる。

実際の暮らしで何が変わる？ケースで見る判断基準

具体的なケースを3つ示します。ご家族がどのケースに近いかで選び方が見えてきます。

ケースA：まだ自立度が高く、安心して暮らしたい

普段は一人で買い物や家事ができ、外出も問題ないが「夜一人だと心配」な場合。サ高住はピッタリです。見守りサービス＋必要に応じた訪問介護の組み合わせで、生活の自由度を保ちながら安全を確保できます。

ケースB：リハビリ中心で自宅復帰を目指す直後の状態

病院を出てしばらくはリハビリや医療ケアが必要な場合は、老健の方が向いています。短期間で集中してリハビリを受け、自宅復帰を目指す施設のため、サ高住より医療連携が手厚いです。

ケースC：要介護度が高く、日常的に介助が必要

トイレ・入浴・食事など日常介助が継続して必要、あるいは医療的ケア（点滴・人工呼吸など）が必要な場合は、特養や介護医療院など、介護体制が整った施設を検討すべきです。サ高住では対応が難しくなります。

見学時に必ずチェックする“10の質問”

見学時に押さえておきたいポイントをリスト化しました。メモを持って行って確認してみてください。

1. 安否確認の方式：どの時間帯で誰が確認するのか？（人による巡回か、センサーか）
2. 緊急時の対応フロー：救急搬送の基準や連絡先はどうなっているか？
3. 提携している訪問介護事業者：どの事業者と連携しているか、事業所の評判は？
4. 介護が必要になったときの対応方針：どの段階で退去や施設変更の提案があるのか？
5. スタッフの常駐時間：夜間の職員体制はどうなっているか？
6. 契約書の解約条項：途中退去時の違約金や手続きは明確か？
7. 生活支援の具体内容：掃除・洗濯・買い物支援など実際に何が含まれるか？
8. 居室の設備と安全対策：温度管理・手すり・床材・トイレの広さなど
9. 地域との関わり：近隣の医療機関や買い物環境はどうか？
10. 費用の内訳と今後の想定額：月額費用に含まれるもの・別途発生する費用の目安

これらを確認すれば、「住んでみてからこんなはずじゃ…」という失敗をかなり防げます。

費用でよくある勘違い：トータルコストを試算するポイント

「月々の家賃＋管理費だけ見て決めたら、介護が必要になってから家計が破綻した」という相談は現場でも珍しくありません。チェックすべきポイントは以下です。

• 初期費用（敷金等）と保証料：賃貸契約と同様の費用がかかる場合があります。
• 基本の月額費用に含まれるサービス：見守り、生活相談、共用設備の維持など。何が含まれるかを明確に。
• 介護サービス費の想定頻度：訪問介護（週何回）、デイサービス（月何回）を実際に想定して見積もりを取る。
• 医療費や薬代、消耗品費（紙おむつなど）：これが意外と家計を圧迫します。
• 将来的な移転・入居調整コスト：介護度が上がった際に転居が必要になれば、その費用も計上。

私は家族から相談を受けると、必ずこの試算表を一緒に作ります。見かけの安さで決めず、数年先までの「現実的なコスト感」を持つことが重要です。

契約前に家族で話すべき“5つの合意事項”

入居は家族の共同意思決定が必要です。トラブルを避けるために、契約前に家族で合意しておくと良いポイントを挙げます。

1. 財源の分担：誰が毎月の費用を出すか、緊急時の自己負担はどうするか。
2. 介護方針：どの程度まで外部サービスを利用するか（例：夜間の訪問を導入するか等）。
3. 意思決定者：病状が急変した際の判断者を明確にしておく（委任状・家族会議の記録）。
4. 連絡体制：緊急連絡先や日常の報告頻度（週1回の報告メール等）を決める。
5. 退去条件：どういう状態になったら転居を検討するか、家族間で基準を合わせる。

こうした合意があれば、後で「知らなかった」「勝手に決めた」等の軋轢を防げます。

転居・入居後の“現場目線”でのポイント

入居してから「こんなはずでは…」とならないための現場チェックです。入居初期の3か月は特に重要です。

• 初回のサービス評価：入居後1か月以内に、実際に使ったサービスの満足度を家族で話し合う。
• 連携体制の確認： 訪問介護やデイサービスとの連携は予定どおりに動いているか。
• 生活リズムの調整：本人の睡眠・食欲・排泄リズムが変わっていないか観察する。
• スタッフとの信頼関係：相談しやすいスタッフがいるか、窓口は明確かを確認する。

問題があれば早めにケアマネや物件管理者へ相談してください。初期の不満は放置すると大きくなります。

よくあるQ&A（現場で聞かれる質問）

Q. サ高住で介護度が高くなったらどうなる？

A. 施設によりますが、多くは退去や転居の検討になります。事前に「どの程度まで対応可能か」を契約前に確認しましょう。

Q. サ高住で夜間の見守りはどうしている？

A. 人による巡回やコールセンター連携、センサー類での見守りなど、物件ごとに方法は異なります。実際の運用を必ず確認してください。

Q. 契約解除や退去のタイミングは？

A. 契約書に記載されています。事前に違約金・退去時の原状回復費用・通知期間を必ず確認しましょう。

最後に：家族としてできる“安心の積み重ね”

サ高住は選び方次第で、とても暮らしやすい「選択肢」になります。重要なのは、住まいの見守り機能＋外部サービスの組み合わせを現実的に設計することです。

私が家族にお伝えしている一言はこれです。
「今の状態に合った住まいを選び、将来的に必要になりそうなサービスを前もって確認・準備しておく」。これだけで、いざというときの焦りがぐっと減ります。

もし迷っているなら、一度一緒に見学してみませんか。現場で20年見てきた経験から、家族の状況に合わせた視点でアドバイスできます。どうぞお気軽にご相談くださいね。

執筆：みしょ（介護主任）｜現場での経験を元に、家族が後悔しない選び方をお届けします。