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新人さんへの教え方で失敗した話|介護職員のリアルな学び
はじめに
介護現場では、新人さんへの指導も私たちの大切な仕事のひとつです。
けれど、実際にやってみると「うまく伝わらない」「何度言ってもできない」と悩むことも多いもの。
今回は、私自身が経験した“新人指導での失敗談”を通して、教えることの難しさと大切さを振り返りたいと思います。
1. 「自分のやり方」を押しつけてしまった
私が介護主任になって間もない頃、配属されたばかりの新人さんにオムツ交換を教える場面がありました。
その新人さんは20代前半の女性。初めての介護の現場で、緊張しているのが伝わってきました。
私は「まずは見せて、次にやってもらう」という手順を説明しました。
しかし、実際にやってもらう段階で、新人さんの手は止まり、表情は不安でいっぱい。
「ここ持って、そうそう、次こうして!」と声をかける私の声は、次第に焦り気味になっていました。
終わったあと、彼女は小さな声で「すみません…全然頭に入ってなくて」と言いました。
その言葉に、ハッとしました。私は“教えたつもり”になっていただけで、新人さんの理解や感情をまったく見ていなかったんです。
2. 「教える」は「伝える」とは違う
介護の仕事は、経験と感覚がとても重要です。
だからこそ、つい「やれば分かる」「見て覚えるでしょ」と思ってしまいがち。
でも、それはあくまで“慣れた側”の考え方でした。
新人さんにとっては、どんな動作も初めて。
先輩の一言ひとことに緊張し、失敗への不安でいっぱいなんです。
私の指導は「方法の伝達」にはなっても、「安心して覚えるための支援」にはなっていませんでした。
今振り返ると、あのとき必要だったのは「教え方のうまさ」よりも、
“この人になら聞いても大丈夫”と思ってもらえる関係づくりだったと思います。
3. 新人が抱える“見えないプレッシャー”
新人さんは、「失敗できない」という思いを強く持っています。
でも介護は、人を相手にする仕事。教科書通りにいかないことの連続です。
そのギャップに苦しんで、自信をなくしてしまう人も少なくありません。
ある新人さんは、夜勤の申し送りで涙ぐんでいました。
「先輩に迷惑をかけたくないのに、できない自分が情けない」と。
私は「大丈夫、最初はみんなそうだよ」と声をかけながら、
自分も同じように泣きたくなった夜があったことを思い出しました。
「できない自分を責める前に、“これからできるようになればいい”と伝えてあげる」
それが、私が今でも大切にしている新人支援の言葉です。
4. 教える側にも“余裕”が必要
忙しい現場では、つい「早く覚えてほしい」「説明する時間がない」と焦ってしまいます。
でもその焦りが、新人さんにとってはプレッシャーになります。
教える側が“余裕のない空気”を出すと、相手はますます委縮してしまうんです。
指導するときに意識しているのは、「スピードより安心感」。
一歩ずつでいいから確実に覚えられるように、焦らせず、できたことをきちんと認める。
「前よりできたね」の一言で、モチベーションは驚くほど上がります。
5. 「わからない」を言える空気づくり
あるとき、新人さんから「分からないって言っていい雰囲気じゃなかった」と言われたことがあります。
それを聞いて、正直ショックでした。
“何でも聞いてね”と口では言っていたけれど、忙しそうにしている私の姿が、“話しかけにくい先輩”に見えていたのだと思います。
それ以来、私は意識的に「今の説明、分かりづらくなかった?」と聞くようになりました。
自分から歩み寄るだけで、相手は安心します。
人間関係の基本は、“話しかけやすさ”の積み重ねなんですよね。
6. 教えることは「共に育つ」こと
新人教育は、一方通行ではありません。
教える過程で、「自分も忘れていた基本」に気づかされることがたくさんあります。
「なんでこの順番でやるんですか?」と聞かれて、初めて説明できなかったときの恥ずかしさ。
それが、自分をもう一度成長させてくれるきっかけにもなります。
新人教育は、「自分を見つめ直すチャンス」。
できない新人を育てる時間が、実は“できる先輩をつくる時間”でもあるんです。
7. 指導の正解は「その人の中にある」
どんなに経験を積んでも、「教えることの正解」は一つではありません。
新人さんの性格、理解のペース、環境によって、最適な教え方は全然違うんです。
大切なのは、“相手のタイプを見極めること”。
たとえば、慎重なタイプには「焦らなくて大丈夫」。
挑戦的なタイプには「思いきってやってみよう」。
その一言の違いが、相手の安心にもやる気にもつながります。
8. まとめ:教えることで、自分も変われる
新人さんを育てることは、忍耐も時間も必要です。
でも、その過程で自分も確実に成長していると実感します。
教え方を見直すたびに、少しずつ“伝わる言葉”が増えていく。
それが、現場で積み重ねてきた経験の価値だと思います。
「新人にどう接していいか分からない」「指導が苦手」と悩むのは当たり前。
完璧な先輩なんて、誰もいません。
大切なのは、“相手を思う気持ち”を持ち続けること。
その気持ちさえあれば、指導は必ずうまくいくと信じています。
そして何より――
あのときの失敗が、今の自分を育ててくれた。
そう言えるようになることこそ、介護職としての本当の成長なのかもしれません。
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