【実話】介護施設の施設長によるハラスメント事件
現場から考える“管理職の責任”
こんにちは、介護主任のみしょです。
今回は、福岡市の特別養護老人ホームで判決が出たある施設長によるパワハラ事件を題材に、介護現場の人間関係と管理職の責任について深く考えてみたいと思います。
この判決は、単なるニュースではありません。職員の尊厳や介護現場の空気、管理職としての在り方に対して、強烈な問いを突き付けています。
事件の背景と裁判での認定内容
この事件は、社会福祉法人が運営する福岡県内の特別養護老人ホームにおいて、2008年から2016年ごろまで、施設長が複数の職員に対して継続的な心理的・身体的ハラスメント行為を行ったとして、職員側が訴訟を起こしたものです。0
判決内容では、施設長による暴言・人格否定・威圧的態度だけでなく、報告義務を怠った職員に対し、「便器のブラシを舐めさせる」といった身体的な屈辱行為を命令したという証言も採用され、裁判所は「業務の適正な範囲を逸脱し、精神的・身体的苦痛を与えた不法行為」と認定しました。1
さらに、施設側が退職金を支払わない旨の主張をしていた点についても、就業規則や慣行を理由に主張を認めず、賠償と未払い金支払いを合わせて **約2,800万円** を支払うよう命じられたのです。2
この判決は大きな反響を呼び、複数の労働・介護関連ニュースでも取り上げられました。3
「指導」と「ハラスメント」の境界線とは?
施設での指導は避けられません。しかし、どこからが指導で、どこからがハラスメントなのか——この線引きは非常に難しいものです。
業務指示や改善を促す声かけが、「人格否定」「恫喝」「支配」の要素を含むようになると、それはもはや「指導」ではなく「ハラスメント」です。たとえば、
- 「お前はバカだ」「学歴がないくせに」など人格を否定する発言
- 無意味に怒鳴る、罵倒を繰り返す
- 屈辱行為を強要する(今回の便器ブラシ舐めのような行為)
- 過度な監視、過剰な罰則的な対応
特に注意すべきは、「これはあなたのために言ってる」といった言葉で隠される暴力性です。言葉の奥にあるもの——恐怖、屈辱、支配欲——が見えたとき、それはもう「指導」ではなく「破壊的な関係」に変わります。
施設長・管理職の責任と役割
この事件を通して、管理職には「立場の重み」が改めて浮き彫りになりました。施設長や管理者は、ただ施設を運営する人というだけでなく、**現場の空気・風土をつくる人**です。
管理職の態度・言葉遣い・判断が、現場の士気や職員同士の信頼関係を大きく左右します。トップが「怒鳴る・叱責する」ことを常態化すれば、現場は萎縮し、ミスや離職が増え、暗い空気が蔓延します。
逆に、
- 信頼を基盤にした指導
- ミスを許容し学びに変える風土
- 部下との双方向コミュニケーション
- ハラスメント防止への意識と行動
こうした姿勢があれば、職員は安心して誠実に働きやすくなります。管理職には「知識・技術」以上に、「人としての器」「他者への敬意」が求められるのです。
現場としてできること・被害を防ぐためのアプローチ
ハラスメントは、被害者だけが改善を求めても解決しづらい側面があります。現場からできることを、いくつか挙げてみましょう。
1. 「おかしい」と思ったら声を上げる
小さな違和感を無視しないことが重要です。相談窓口・労働組合・信頼できる同僚・第三者機関など、発信先を持っておきましょう。
2. 事実記録を残す
発言・行為・日時・場所・証人・録音・メールなど、可能な範囲で証拠を抑えておくことが、後の対応を左右します。
3. 助けを借りる
外部相談機関・労働局・法律事務所に相談することは恥ずかしいことではありません。事態が重大化する前の早期対応が肝心です。
4. 自分の働き方を見直す準備も
もし職場改革が望めない環境なら、転職も選択肢です。無理をして心身を崩してしまう前に、自分を守る選択肢を持つことが大切です。
この事件からの教訓と再発防止への視点
この事件は特異な極端な例に思えるかもしれません。しかし、「誰が加害者になってもおかしくない」「風通しが悪い現場ではすでに類似の問題が起こっている可能性がある」ことを、私たちに強く教えてくれます。
教訓をいくつか整理します:
- 管理職・施設長にもハラスメントを防ぐ倫理・責任がある
- 現場が“声出せない構造”であってはならない
- 組織として通報制度・相談体制・外部監査が不可欠
- 被害を放置すると損害賠償・ブランド毀損・離職増という形で組織にも跳ね返る
- 組織文化を変えるには、トップの覚悟と現場の参加が両方必要
特に介護の現場は、利用者・職員・家族の信頼が命綱。信頼関係を壊さないためにも、日々のコミュニケーションや風土づくりに意識を向けたいものです。
結びに:信頼と尊重がすべてを決める
介護という仕事は、人と人とのつながりのなかで成り立っています。利用者さん、職員、家族—— すべてに関わる「信頼」がなくては、質の高いケアは実現できません。
この事件は、あまりにも痛ましいものでしたが、同時に私たち一人ひとりに問いを投げかけています。
「今、自分の職場は安全か? 人の尊厳が守られているか?」
その問いを、ぜひ日常に持ち帰ってほしいと思います。
参考情報
この判例や報道は、「特養施設長のパワハラ認定、職員5人に約2,800万円支払い命令」について、複数のメディア・報道機関で取り上げられています。4


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