「うちの親だけ認知症がひどい?」…そう感じたときに知っておきたいこと
はじめに
「うちの親、他の人より症状が重い気がする…」
「周りはもっと会話もできてるのに…」
認知症の親を介護していると、そんな不安や疑問にぶつかることがあります。
でも、それは決してあなただけではありません。
介護歴19年・現役介護主任の私自身も、実際に現場で多くのご家族から同じ声を聞いてきました。
今回は「うちの親だけ重いの?」と感じたときに知っておきたいことを、具体的なエピソードを交えてお話しします。
1. 認知症には「タイプ」と「進行の早さ」がある
認知症とひとくくりに言っても、実は種類があります。
代表的なものは以下の4つです。
- アルツハイマー型認知症:最も多いタイプ。記憶障害からゆっくり進行。
- 脳血管性認知症:脳梗塞などが原因。階段を下りるように「できる/できない」が急に変化。
- レビー小体型認知症:幻視や転倒、睡眠障害が目立つ。比較的若い世代にも発症。
- 前頭側頭型認知症:感情や行動の変化が強く出やすく、家族が戸惑いやすい。
「同じ認知症」でも、症状の出方や進行スピードはまったく違います。
あるご家族は「1年前まで料理していたのに、今は火のつけ方も分からなくなった」と話し、別のご家族は「5年前から診断されているけど、まだ散歩も買い物もできる」と言います。
つまり「うちの親だけ進んでる…」という感覚は、タイプの違いや個人差によるものかもしれません。
実際、私が担当してきたケースでも、アルツハイマー型で10年以上ゆっくり進む方がいれば、脳血管性で2年ほどで大きく生活が変わる方もいます。
「同じ病名なのに全然違う」と驚かれるご家族も少なくありません。
2. 比べる対象が“見えてる部分”だけだから不安になる
他の家族の介護の様子って、実は断片的にしか見えません。
デイサービスやショートステイで出会った利用者さんが、たまたまその日調子が良かっただけ…というのはよくある話です。
現場で働いていると、「あの人はすごく元気そうね」と言われる方が、家に帰れば夜中に何度も徘徊して家族が疲れ果てている、なんてことも珍しくありません。
一方で、ご家族自身も「大変です」と正直に言えず、つい「なんとかやれてます」と笑ってしまうこともあります。
つまり、見えているのは“ほんの一部”。
だからこそ「うちの親だけ」と感じやすいのです。
また、SNSやテレビの特集などで「認知症でもこんなに元気!」と紹介される方を見て、比較して落ち込む方もいます。
でもそれは“良い場面を切り取った一例”にすぎません。
実際には裏で苦労している時間があり、家族のサポートがあってこそ成り立っていることが多いのです。
3. 進行が早い背景にある“環境要因”
認知症の進行には「本人の脳の状態」だけでなく、「環境」が大きく関わります。
例えばこんなケースがあります。
- 長年暮らした家から急に施設へ移った → 不安で混乱し、進行が早まった
- 配偶者を亡くした → 喪失感から活動意欲が低下し、認知症が一気に悪化
- 持病の悪化や薬の副作用 → 記憶や判断力に影響
- 外出や人との交流が減った → 刺激不足で進行が早まる
私が担当したある方は、入院をきっかけに進行が一気に早まりました。
入院中はベッドでの生活が多く、会話も減り、退院後には「トイレの場所が分からない」と訴えるほどに。
逆に、デイサービスで体操や歌を楽しむようになってから「会話が増えた」と喜ばれるケースもあります。
つまり環境を工夫することで、進行をゆるやかにできる可能性もあるのです。
「環境要因」は家族が工夫できる部分でもあります。
例えば――
- 散歩や買い物に一緒に行く
- 写真を見ながら昔話をする
- 好きな音楽を流す
- デイサービスや趣味のサークルを利用する
こうした小さな積み重ねが、ご本人の生活意欲を引き出し、進行を緩やかにすることがあります。
4.「症状の重さ」より「どう接するか」が大切
比べたくなる気持ちはとてもよく分かります。
でも、本当に大事なのは「今、目の前にいる親とどう関わるか」です。
例えば――
- 「ありがとう」と声をかけたら、にっこり笑ってくれた
- 昔の話をすると、ふっと目が潤んだ
- 一緒に歌を口ずさむと、自然に笑顔が出た
認知症になっても、その人らしさは残っています。
「できなくなったこと」よりも「できること」「反応があること」に目を向けると、介護のつらさが少し和らぎます。
現場でも、重度になってほとんど会話が難しい方が、音楽を聴くと突然口ずさんだり、孫の名前を呼んだりすることがあります。
それは家族にとって大きな喜びになり、「まだつながれている」と感じられる瞬間です。
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おわりに
認知症の進行は十人十色。
だからこそ「うちの親だけ」と感じるのは、誰もが通る道です。
大切なのは、比べすぎず、自分と親のペースを大切にすること。
焦りそうになったら、深呼吸して思い出してください。
――あなたの介護は、ちゃんと届いています。
そして、その気持ちは必ず親に伝わっています。


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